2012/11/06
定期借地権のこと
川原町といえば岐阜市のなかでも一等地です。そんな所に私たちが家を建てることができたのは、本当にさまざまな方とのご縁があったおかげですが、もう一つ、地主さんと「定期借地権」契約を結ぶことができたからという理由もあります。
私たちは土地を買って新築するには資金が限られていたため、当初は郊外をあちこち探しまわっていました。しかし今はJR岐阜駅ビルにある漆教室を自宅へ移すことを考えると、通ってくる生徒さんたちのためにバスの便が良くなければならず、公共の駐車場も必要なので、結局この川原町周辺に行き着いたのでした。
一方、川原町に土地を探すうち、私たちは歴史あるこの地区ならではの事情を知ることになりました。かつて物流を川に頼っていた頃、ここは材木商たちの土場や製材所が並んでいたのだそうです。上流から流されてきた丸太を陸に揚げ、ここで建材などに加工され、流通していったのです。やがてそれらの土場は、鉄道の開通とともに岐阜駅前へ移っていったのですが、いまも川原町一帯は老舗の材木商さんたちが所有する土地がほとんどです。
その後、地主さんにお会いして事情を伺ってみると、地主さんもいろいろ大変なのだということが分かってきました。岐阜市の顔である古い町並みは残して行かなければならないけれど、残すための費用のほとんどは自己負担しなければならないこと。十数代も続く老舗では、自分の代で土地を簡単に売るわけにはいかないこと。土地を貸そうにも、一般の借地契約では借主が解除しない限りいつまでも契約が続いてしまうので、慎重にならざるを得ないこと。
何とかそのような問題を解決することができないかと調べるうち、「定期借地権」という比較的新しい制度があるのを知りました。これは一定期間だけ土地を借りて、期間満了後は土地を更地にして返すという制度で、期間は50年以上という長期です(一般定期借地権の場合)。つまり、自分が生きている間だけ土地を使わせてもらい、あとは地主さんに返却する仕組みです。借主側の権利が制限される分、地代が安く抑えられるのが一般的で、全国平均では50年分の借地料の合計が、購入する場合の土地価格の半分程度であるようです。
この制度を使って土地を借りることができれば、資金のほとんどを上物に使うことができ、古い町家を住みやすく、町並みにも合うように改修できると考え、地主さんにも提案してご了解をいただきました。50年もの期間の契約は地主さんにとっても初めてで、不安もあったようですが、決断いただいたことには感謝するほかありません。
この制度は地価が上がり続けたバブル期に、土地の購入代金を抑えるために編み出された制度のようですが、むしろこれからの時代に合った制度であるような気もします。今回のような、古い町並みが残る地域や、空き家が増えている中心市街地にも適しているのではないでしょうか。
子どもに不動産を残せないという点も、私たちは良い面もあるのでは、と思っています。子どもが土地のある場所に縛られることなく、自由に自分の人生を選ぶことができるからです。
一定期間だけ土地を借りて、期間満了後は土地を更地にして返す「定期借地権」ですが、今回の契約では川原町ならではの特約条項を入れてもらいました。それは、貸主・借主双方が合意すれば、建物を残したまま貸主に無償譲渡し、契約を満了するという条項です。いわゆる200年住宅とも言われる「長期優良住宅」を建てているので、50年の土地契約期間が終わったあとも、じゅうぶん価値のある住宅であってほしいと思っています。それを川原町の風景のひとつとして残してほしいという思いです。
地主さんとの契約では、そんなことを話しながら、「50年後にはお互い元気で契約満了パーティーをしましょう」と笑い合いました。そのとき私は95歳(笑)。身体も建物も元気でありますように。
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